2018年10月18日、Vpon JAPANは仙台にて「ビッグデータインバウンドワークショップ東北」を開催しました。ゲスト登壇者として、株式会社インアウトバウンド仙台・松島の工藤雅教様より東北の観光課題や観光の役割についてお話いただき、他地域の大阪観光局の牧田拡樹様からは大阪で実施しているOsaka Free Wifiから得られる知見や夜の時間のナイトプロモーションについてお話いただきました。先進的に実行している大阪の知見は東北のデジタルマーケティング関係者の方々も興味深く聞いている様子が伺えました。
「東北の観光客インサイト」
最初のセッションではVpon JAPAN代表取締役社長の篠原好孝より、Vponの保有する6000万人のアジア旅行者データから東北を訪問するアジア旅行客の動向を語りました。
データを活用していくための実施フローには「1データ収集」「2データ分析」「3データ視覚化」「4データ活用」のステップを踏んでいきますが、まずは現状把握が大切なポイントとなります。特にどんな人が訪日しているか、そしてそれはどんな人物像であるのか、そこから施策へと移っていきます。
以下の図はVponビッグデータから分かる東北に訪問する海外旅行者の分布になります。
緑点が台湾からの旅行者、赤点が中国からの旅行者、オレンジ点が香港からの旅行者、青点が韓国からの旅行者になります。仙台市、青森市の周辺は訪日客が密集していることが分かります。
以下は国別に分離した分布図になります。
左から、「韓国の旅行者」「中国の旅行者」「台湾の旅行者」「香港の旅行者」となっています。韓国、中国はこの中では比較的に少ないですが、台湾や香港からの旅行者は仙台、青森の町を始め、移動沿線や観光地に訪問している様子が伺えます。
以下のグラフは縦軸が滞在日数を示しており、横軸が訪日客数となっています。(色付きが東北の6県です)
縦軸(滞在日数)でみると、岩手、青森が全国平均を上回っており数日の宿泊を前提に観光している傾向が読み取れます。一方で仙台のある宮城や福島は滞在日数が少なく、通過地点になっているか、観光目的であっても宿泊してゆっくりする旅行客は少ない傾向です。仙台は東京からも2時間程度なので交通としては利便性があるとも言えます。
横軸の訪日客数でみると、東北の中では宮城が突出しているものの全国的には平均を大きく下回っており、やはりまだまだ東北への訪日マインドは少ないと言わざるを得ません。
上記は東アジア旅行者(中国・香港・台湾からの旅行者)の東北におけるトレンドになります。東北では10月にピークがきており、夏の時期は大幅に下がっています。北海道では12月や2月のウインターレジャー(スキーなど)を目的とした訪日客のピークもありましたが、東北では台湾人(2月)や中国人(11月12月)にやや上昇傾向が見られていますが、各国共通のピークは10月のみになっています。
上図は仙台滞在中のモバイル利用時間を表しています。中国や香港は他都市とも同様の傾向になりますが、台湾人は早朝の5時から午前中の間に平均値(灰色棒)を上回っているのが特徴的です。一般的には夜間にモバイルのアクティブユーザーが増加する傾向がありますが、台湾人に情報を効率的に発信したい場合は早朝にターゲットを置く方法も考えられます。
以上のようなデータをもとに、下記のようなプロモーション設計につながっていきます。
・属性データ(例:30代女性)
・行動履歴(例:過去数日以内に台湾にいたユーザー)
・特定位置情報(例:仙台市近辺のユーザー)
・デバイスシナリオ1(例:端末言語が繁体字のユーザー)
・デバイスシナリオ2(例:朝から昼にかけて集中配信)
「Local Marketing in Tohoku」
続いて登壇いただいたのは株式会社インアウトバウンド仙台・松島 マーケティング事業 執行役員 工藤 雅教様です。「Local Marketing in Tohoku ~地域における観光の課題、 地域課題における観光の役割~」というテーマで東北の観光課題についてお話しいただきました。
講演のポイントを以下の3点として挙げ
(1) 地域における観光の課題
(2) 地域課題における観光の役割
(3) ローカル・マーケティングとデジタルの融合への期待
東北は日本全国的に見て、インバウンド観光(訪日外国人誘客)で、他地域に遅れを取っていると言われますが(※人泊数では全体の1.3%程度) 、増加率では全国平均を大きく上回っています。
東北が直面する課題として、「復興」と「人口減少」があります。そして観光収入をてこにして経済循環を高めること、かつ「観光客数」「消費単価」「域内調達率」のバランスを重要視することを掲げています。すなわち日本版DMO/DMCの役割として、地域にお金が落ちる仕組みを作ることであると語りました。
仙台・松島の圏域6市3町では仙台市を除くと、産業と観光の相関性が低く、特に震災以降、原材料や労働力を域外から調達する割合が増えていることもあり、地域と旅行者双方が抱える課題を「観光」でつなぎ、解決に導くことがDMO/DMCには求められていると話していただきました。
「大阪観光局のデジタルマーケティング施策と今後の展望」
最後のセッションとして大阪観光局 マーケティング室 室長 牧田拡樹様より「大阪観光局のデジタルマーケティング施策と今後の展望~ニーズ調査からコンテンツ造成で魅力ある大阪の情報発信~」のテーマでお話いただきました。
提供しているFree Wifiのデータから様々な現状が浮き彫りになっています。特に夜の時間帯に注目してみると、日本人の観光客は20時〜24時に活動し(Free Wifiを利用している)、最終電車後0〜2時に大幅に減少しています。それに対し、海外の旅行客は20時以降になるとほぼ線形に減少していきます。これは22時〜24時を中心とした観光資源が海外旅行者に魅力的に見えていない可能性があるという仮設が立てられました。
海外旅行者は早い時間帯からホテルに滞在するケースが多く、飲食(バー、居酒屋、たこ焼き、ラーメンなど)やショッピング(ショッピングモール、ドラッグストア、24時間量販店など)、観光(夜景など)にもポテンシャルがあると考えられました。
そこで、Osaka Night Outというキタ・ミナミを中心に19店舗が参加した8月末までの実証実験が行われました。結果は店舗への集客には直結しませんでしたが、まず大阪に来ている「旅ナカ」の人に情報提供が充分でなかったことが判明しました。それにより、予約サービスの構築と旅ナカのユーザーへのデジタル、アナログ両方を活用したイベント・コンテンツの情報発信が改善策となっています。
今後の展開としてはデータの一元管理や広告配信などのアクションプラン最適化のためにDMP構築の必要性が高まっています。それにより、無関心層・予約成立後・旅ナカの各ユーザー層に判別した上でのプロモーション展開が想定されます。
「さいごに」
仙台で開催されたVpon主催のビッグデータインバウンドワークショップ東北ですが、地域観光に関わる方や企業様にお集まり頂き大変貴重な機会となりました。そして今回は大阪観光局様のケースも仙台の方に参考になることが多かったのではないかと思います。各地域でそれぞれの事情や背景もあり、それも含めてVponのビッグデータがお役に立てれば幸いに思います。最後になりますが、登壇者の工藤様、牧田様に御礼申し上げます。
■登壇ゲスト
株式会社インアウトバウンド仙台・松島 マーケティング事業 執行役員 工藤 雅教 様
公益財団法人 大阪観光局 マーケティング室 室長 牧田 拡樹 様
※当記事は2018年10月の情報をもとに構成しています。掲載内容、所属団体、部署名、役職名等は、セミナー開催時のものになります。