大阪観光局DMPで効果的なデジタルマーケティングを
~大阪観光局×泉佐野市 事例インタビュー~
【インタビュー概要】
大阪観光局DMPは、来阪者数と消費額の増加を目指して開発され、Vponが持つインバウンド施策に特化した豊富なデータや知見を活かして、大阪観光局と共に観光データベースとして作り上げられました。大阪観光局ではアフターコロナの観光回復を見越し、大阪府の全市町村がビッグデータを活かした戦略や施策の立案、効果検証を可能にする大阪観光局DMPを2022年度から本格的に提供を開始します。
一方、大阪府泉佐野市は1994年の関西国際空港開港後、世界と日本を結ぶ玄関口としてこれまで多くの訪日旅行者を迎えてきました。今回、大阪観光局DMPの本格展開に先立ち、泉佐野市に試験的に導入を行い、国際都市を目指したまちづくりに取り組む泉佐野市のこれまでのデジタル課題やDMPの利用状況などを伺いました。
写真右から
・牧田 拡樹 氏(公益財団法人 大阪観光局 マーケティング戦略室室長)
・中平 良太 氏(泉佐野市 政策監(兼)成長戦略室長(兼)MICE推進担当理事)
・会田 健介 氏(Vpon JAPAN株式会社 セールスエグゼクティブシニアマネージャー)
■ デジタル化が目的となっている現在。観光のデジタル化は後回しに
中平 良太 氏(泉佐野市 政策監(兼)成長戦略室長(兼)MICE推進担当理事)
泉佐野市でのデジタル施策のご状況や課題についてお聞かせください
中平氏:
これは泉佐野市といった自治体だけではなく、民間を含めた日本全体が遅れている状況だと思っています。この現状を改めて実感したのは、約4年前にMICE施設の視察としてシンガポールへ訪れた時です。例えば、日本だと受付入場で30分ほど時間がかかってしまうのですが、シンガポールでは事前にアプリをインストールするのでストレス無く入場できました。また、そのアプリ自体に参加者とマッチングする機能が備わっており、会場内のデジタルサイネージもスマホと連携できてコンセルジュのような役割を果たしていました。このような場面だけを切り取っても、シンガポールと日本のデジタル化に差を感じてしまったのですが、自治体はさらに遅れている状況です。
今年9月にデジタル庁が発足されたので、その動きに合わせて市町村が行動していくことになります。本来デジタルは、様々な施策のやり方や体制のあり方を変えていくツールであると思います。しかし現在は、多くの自治体はデジタル化が目的となっています。まずは、ワンストップサービスやプッシュ型サービスなどの市民向けのサービスを充実させた後、次の段階として観光マーケティングに活かせるような職員向けサービスの導入という流れになってしまうので、結果的にデータを基にしたマーケティングからトラベルテックまでの観光DX化は後回しになってしまうことが課題です。
■ 費用がかかってしまうDMPを、これまでの経験と共に府内市町村へ提供したい
牧田 拡樹 氏(公益財団法人 大阪観光局 マーケティング戦略室室長)
大阪観光局様は、独自のDMPを自治体へ提供するにあたって、自治体のデジタル面での課題に対してどのような考えをお持ちですか?
牧田氏:
デジタル施策で言うと、スーパーシティやDX化などの街全体をシームレスな世の中にしていこうというのが日本全体の動きです。我々が行っているのはマーケティングで、マーケティングの部分もデジタルに変えていきましょうという取り組みです。よく言われているのは、長年観光に携わっている方の“勘と経験と思い込み”で観光施策をやっているけれど、効果検証不足でその取り組みが本当に良いのかよくわからないという事実です。
我々は2018年からDMPを導入し、データに基づいたマーケティングを行ってきたのですが、これは全国から見てもかなり先駆けとなった例だと思っています。
トライ&エラーを繰り返しながら、マーケティング施策に活かす精度を高めてきたので、これまでの知見や失敗事例も含めて、経験してきたことをお伝えしながら進められればと思っています。しかし、DMP自体は大阪の観光における経済効果を底上げするようなシステムである一方、各市町村それぞれが導入すると莫大なコストがかかってしまいます。精度の高いデータに加えて、コストを抑えながら施策に活用できる大阪観光局DMPにより、勘と経験と思い込みのマーケティング戦略から脱却できるのではと思っています。
■ 空港都市のポテンシャルを最大限活かすために、地域の特色を生かした開発へ
中平 良太 氏(泉佐野市 政策監(兼)成長戦略室長(兼)MICE推進担当理事)
コロナ禍に入り、これまで計画していたものに取り組むことが困難な状況となりましたが、泉佐野市が観光で目指している姿や将来図などはありますか?
中平氏:
一番のゴールは持続可能な自治体になることです。「住む」「働く」「遊ぶ」まちづくり、つまり定住人口・交流人口(・関係人口)の増加は、全国の自治体が掲げている目標だと思いますが、泉佐野市はそれに加え、新たに策定した「泉佐野市MICE戦略」では、他の自治体からの通勤(・通学者)といった昼間人口の消費額にも注目しています。元々泉佐野市は、昼夜間人口比率が105%前後と高く、実は100%を超えている自治体は大阪府内で43自治体中6市町しかありません。RESAS(地域経済分析システム)データによると、(泉佐野市の)昼間人口経済は約970億円あります。市経済の主体となっているのは観光産業なのですが、インバウンド一本足打法から脱却するために、地場産業が増えるような空港立地の特色を活かした施策や開発へと進めていきたいと考えています。
泉佐野市は空港都市です。長年のデータから、国際線利用者の1割の方は泉佐野市に滞在されている程、日本でも有数の宿泊拠点地であることがわかっています。しかし、観光消費額では物足りません。
周りが奈良や和歌山、京都などの観光資源地で囲まれているので、市内の観光資源を磨き上げるだけではなく、MICEや医療などの空港都市のポテンシャルを生かした新たなツーリズム振興や広域連携による観光ハブ化を目指したいと考えています。
コロナ禍に入り、泉佐野市の観光は打撃を受けましたが、IATAの予測によると、2019年時点の国際旅客数に戻るのは2024年と言われています。2025年には大阪万博が開催されるので、観光の再構築に向けて取り組んでいきたいです。
■ 大阪観光局DMPでエビデンスに基づいた施策立案が可能に
会田 氏(左)と中平 氏(右)
大阪観光局DMPの有効性とこれからの期待値について教えてください。
中平氏:
大阪観光局さんがいち早くVponさんのDMPを取り入れ、市町村にもそのシステムを使えるようにしていただけるのはとても有り難いです。今後人口減と高齢化に伴い、税収額の低減や義務的経費の増加が見込まれています。予算を効率的に使うことがこれまで以上に求められる中、今後何が必要かというと、EBPM政策(エビデンスに基づいた政策立案)です。
SNSや XR(※1)を用いたプロモーションなどの、狭い意味でのデジタルマーケティングを進めていくことは大前提で、本当はDMPのようなエビデンスのためのツールも導入しないといけないと思っていました。しかしこれまでは、データを取ること自体も一苦労でしたし、ましてやデータごとに指標がバラバラだったので、比較検討どころかエビデンスにもなりませんでした。そんな状況だったのが、大阪観光局DMPでは簡単にデータを取り出すことができ、施策を考える上でもエビデンスに基づいた施策立案が可能になりました。
大阪全体のプロモーションを担う大阪観光局さんが独自のDMPを保有し、それを自治体にも提供してくれるということなので、DMPの使い方・考え方がわからない自治体にも普及できるように大阪観光局さんが率先して取り組んでくれればと思います。
今後こうして欲しいなどのご要望はありますか?
中平氏:
使ってみて思ったこととしては、泉佐野市の立ち位置が分かりづらいところです。市を中心として考えないといけないので、府内で現在どの段階にいるのかなど分かるようになっていれば有り難いです。
さらに言うと、観光ハブ化のため観光広域連携を考えるうえでも、近辺の泉州エリアといった中域エリアについてもデータとして見られたらいいなと思っています。
■ 展開によって得られる声を拾いながら、府内43市町村へ提供
中平 氏(左)と牧田 氏(右)
今後、大阪観光局DMPを活用した展開などがあればお聞かせください
牧田氏:
インバウンド向けのDMPになっているので、今年度は大阪府の中でもインバウンドを中心に受け入れている泉佐野市さんと堺市さんにご利用いただいています。中平室長からもお話があったように、もっとこうした方がいいとか、こういうものないの?といった声を拾いながら、来年度は府内の43市町村へ展開していこうと考えています。
大阪観光局DMPを使うことで、ぼやっとしていたものが仮説・検証を通して鮮明になっていくので、それらの数を重ねるたびに効果検証結果の向上、さらには最終的には観光の磨き上げにも繋がっていくと思います。また、ストックされているデータがまさに大阪全体のデータベースになるので、各都市のカラーに合わせて大阪観光局も観光戦略を立てていき、自治体・観光客の双方に良い影響を与えられると期待しています。
インタビュー阿部 真美(Vpon)
備考
※参照1:XR(クロスリアリティ)とは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実やMR(複合現実)といった先端技術の総称