まずここで皆さんに問題です。
台湾、香港、中国で使われている文字はなんでしょう?
きっと多くの皆さんが「漢字!」と答えるのではないでしょうか。その答えは半分正解で半分不正解です。それはなぜかといいますと、漢字は漢字でも使っている漢字が違うからです。
では使っている漢字が違うとは一体どういうことでしょうか?
ということで、今回は前回のブログよりもう少し「文字」について深堀りして考えていきます。
簡体字と繁体字
以前のブログでも紹介したように、同じ漢字圏であっても台湾と香港は「繁体字」、中国では「簡体字」が使われています。この違いはインバウンド対策を行う上で一番に注意を払わなければならない部分といえます。
なぜなら、例えば台湾人や香港人向けてに訴求をするために簡体字でページを作ったとしましょう。
すると台湾や香港の人たちからは「これは私達ではなく中国人向けのページだ!」と思われてしまい、見向きもされなくなってしまうことがあるからです。その逆も同じです。中国人向けの訴求にも関わらず繁体字で訴求をすると「私達向けではない」と思われてしまうリスクがあります。
簡体字とは
簡体字は繁体字を簡略化させた字で、中国やシンガポールで使われています。一部の簡体字は日本の漢字と近いものもありますが、極端に簡略化された字もあることから、日本人から見るとまるで記号のようにも見えてくることもありますよね。
現在の簡体字が中国に定着したのは比較的新しく、中華人民共和国の成立前は繁体字が使われていました。ですが簡体字の概念自体はそれ以前から存在し、庶民が簡単に漢字を書くために使われてきました。しかし、それらの簡体字は統一されていたわけではなく人や地域によって様々でした。
1949年に中華人民共和国が成立すると、識字率の向上と文字の統一を目指して中国文字改革委員会が設立され、1964<年に「簡化字総表」として正式に採用され、修正が加えられながら現在の形となりました。
図 1:日本語と簡体字の比較
繁体字とは
繁体字は昔から使われている伝統的な漢字です。台湾や香港、マカオを中心に使われています。繁体字は字数が多いため書きづらい部分もありますが、日本の旧字体に近いため日本人には馴染み深い字も多く、比較的読みやすいのではないでしょうか?
台湾では昔から中国大陸から渡ってきた人々を中心に漢字が使われ、現在の繁体字は清末期に使われていた漢字が基本となっているそうです。その後、中華民国政府によって繁体字の統一化/標準化が進められたため、現在も繁体字が日常的に使用されています。
香港は中国に隣接した地域ではありますが、1842年から1997年まで約150年間に渡ってイギリスの統治下にあったことから、中国から簡体字が流入されずに中国に返還された現在まで繁体字が日常的に使用されています。
図 2:日本語と繁体字の比較
繁体字と簡体字を比べてみよう
まずはこちらの図をご覧ください。
図 3:簡体字と台湾繁体字、香港繁体字の比較
こちらは日本語を台湾の繁体字、香港の繁体字、簡体字で表記したものです。
※オレンジ…他と異なる漢字が使われている場合。
・東京
簡体字の場合は「東」という字が簡略化されます。繁体字は日本語と同じ「東」が使われます。
・成田国際空港
中華圏への路線が多い成田国際空港の場合は繁体字と簡体字では表記が異なる点が多くなります。
繁体字の場合は「国際」は難しい「國際」になりますが、簡体字の場合は「国は」日本と同様で「際」は簡略化され、「际」となります。「機場」は中国語で空港という意味ですが、繁体字の場合は日本でも使われる漢字になります。それが簡体字になると簡略化され、「机场」となります。
・ホテル
簡体字と香港繁体字の場合は「酒店」、台湾繁体字の場合は「飯店」となります。
中国や香港では「飯店」は中華レストランに、台湾では「酒店」はナイトクラブという意味になりますので、使う際には注意が必要です。
・台湾
簡体字の場合は「台」も「湾」も日本語と全く同じです。
繁体字は台湾と香港では表記が異なり、台湾繁体字の場合は「台」が「臺」となります。しかしながら、実際は台湾では「臺」という字は公式文書や公共の場面などでは使われていますが、一般には「台」を使うことが多いようです。
・大阪
一方「大阪」は簡体字も繁体字も日本語と全く同じです。これは「北海道」でも同じことが言えます。
・タクシー
タクシーの場合は繁体字と簡体字は関係なく全く異なる字を使って表されます。簡体字の「出租车」の場合は中国のタクシーの営業形態からこのような字になりました。「(出)租車」は台湾では「レンタカー」ということになります。
台湾は読んで字の如く「行程を計る車」で「計程車」です。
香港の場合は英語の「Tixi」を広東語の発音で当てはめたもので、実際に「ディックシー」と発音されます。これはイギリス統治時代の名残りがあるものと思われます。
バスの場合も同様で、簡体字は「公交车」台湾繁体字は「公車」、香港繁体字は「巴士」となります。
このように簡体字と繁体字を比較すると字体が大きく変わることがわかります。また、場所ごとの環境や背景によって使われる漢字が全く異なることもあるのです。またひとえに繁体字でも台湾と香港では政府ごとに標準字体が制定されているため、必ずしも全く同じというわけではないことがわかります。
台湾、中国、香港向けにLP、コンテンツ制作、どうしたらいい?
先ほどあげた例で繁体字と簡体字では表記が違うこと、また繁体字でも香港と台湾では多少違うことがあるということがおわかり頂けたと思います。
また、このような違いから繁体字圏に住む人が簡体字を、簡体字圏に住む人が繁体字を理解することができない場合もあります。そのため台湾や香港向けにも関わらず簡体字でページを制作してしまうと見てもらいたい人に見てもらえない可能性が非常に高くなります。逆も同様に中国向けにも関わらず繁体字でページを制作しても見られる機会が少なくなります。
ではそれを防ぐためにはどうしたらいいのでしょうか。
1. 簡体字ページと繁体字ページを分ける
最近は簡体字と繁体字を分けて制作されているページが数多く見かけますが、一部では簡体字しかないサイトも存在します。台湾や香港人旅行者向けへプロモーションを行いたいのなら、まずは繁体字ページは必須です。
さらに、よりプロモーションの効果をあげたい場合や、台湾だけ/香港だけにターゲットを絞る場合は、台湾繁体字と香港繁体字を分けて台湾向けと香港向けのページを別々に作る必要もあるでしょう。
2. 現地目線で制作する
google翻訳などで簡体字や繁体字のページを制作することもできますが、まだまだ精度が低い部分もあり、正しく翻訳がされていなかったり、現地で使われていない言葉になることも多いようです。
さらに香港で日常的に使われる広東語や台湾で使われることがある台湾語を文字化した現地だけで使われる漢字「方言字」が日常的に使わることもあります。
そのため簡体字や繁体字のページを制作するのであればやはり現地目線で、現地の人の手で作る必要があります。
さいごに
台湾、中国、香港は同じ漢字圏ではありますが、歴史的な背景やその場所の環境によって漢字の形が変化し日常で使われています。日本の漢字も同じです。
だからこそ中華圏に向けてプロモーションを行う場合は現地の言語の違いを理解する必要があります。
理解することでより多くの人にそのコンテンツやページを見てもらうことができ、自地域/自店舗に来てもらえるチャンスが広がります。
ですが、そんな簡単に現地の言語事情を知ることはできない、周りに台湾/中国出身の人なんていないという方が大半ではないでしょうか?
もし「中華圏の旅行者向けにプロモーションを行いたいけど、作り方がわからない」「現地の目線から意見がほしい」などがございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせくださいませ。
今だからこそできる、来る日に向けて、今、自地域/自企業が運営する多言語ページを総チェックしてみる良い機会かもしれません。