■日本政府観光局による地方分散の方針
2020年はスポーツ観戦客が増加する見込みである一方、通常の訪日旅行者は混雑や宿泊代の高騰によって、日本への旅行を避ける懸念を抱えています。日本政府観光局(JNTO)はこの現象を「クラウディング アウト」と呼び、2019年10月に対策方針を打ち出しました。それが主に「地方への分散」「時期の分散」になります。
■各地域が最初に行うべきこととは?
東京以外の各地域は、訪日インバウンド対策としてどのようなことを考えておけばよいのでしょうか。二次交通を円滑にするための計画、各宿泊施設や商業施設での多言語対応など2020年に限ったことではありませんが多くの対策が挙げられるでしょう。しかし、各地域のDMOや観光協会など、地域の観光マーケティングを担う方々にとっては、自地域の現状把握ができていないことには具体的な計画に移せないのではないかと思います。
・どんな属性、特徴をもった人が自地域に訪問しているのか
・どんな経路を辿っているのか
・どうやってそのような訪日客にアプローチすればよいのか
■訪日旅行者の三つの分析
インバウンド対策支援を行うVpon JAPANでは保有するアジア全域一億ユーザーの旅行者データを活用し、以下のような分析パッケージを提供しています。
・滞在分析:旅行者の滞在日数、訪問時期、滞在場所など
・移動分析:自地域を訪問した旅行者は他にどの地域を訪問しているかなど
・属性分析:旅行者の性別や興味関心などの人物像
図1:インバウンド分析パッケージ例
ここからは、このような分析ソリューションを活用した活用事例をご紹介します。
■活用事例1:岩手県八幡平市(八幡平DMO)
岩手県八幡平市は、北は青森県、西は秋田県に接し、北東北3県の中心に位置しています。そして東北自動車道など整った交通基盤に加えて、高原リゾート、温泉、スキー場など豊富な観光資源を保有している地域となっています。しかし訪日旅行者の傾向は不明確な状態でした。そこでVponのデータ分析を活用することで、次のような傾向が見られました。
・秋(紅葉時期)や冬(スキー時期)は多く訪れているが、春(桜時期)や夏(学生の長期休み)は大幅に減少する傾向。
・八幡平市と他都市の訪問の関係性を見ると、仙台駅のある宮城県(仙台市)、成田空港の千葉県(成田市)、盛岡駅の岩手県(盛岡市)が相関性の高いトップ3。続いて青森駅や青森空港の青森県(青森市)、東京都(千代田区)が続く。
・台湾人ペルソナは、インスタ好きアクティブ20代女子(紅葉などの景色をアップする健康志向の旅行好き女性)やカメラ好きな30代独身男性(山登りやスノボをし、一眼レフを所有)。
・香港人のペルソナは、家族連れの資産家40代男性(子供に雪を見せて家族で温泉)など。
図2:八幡平市と他都市の季節ごとの訪問相関
■活用事例2:北海道旭川市周辺(大雪カムイミンタラDMO)
大雪カムイミンタラ観光圏(北海道旭川市、上川町など)では旭山動物園、層雲峡温泉などが含まれ、こちらも観光資源に恵まれた地域になります。交通としても旭川を中心に旭川空港、JR旭川駅などがあり利便性の高い地域でもあります。
しかし一方で、寒冷のイメージや同地域のウインターリゾートの認知不足により夏季シーズンに比べ冬季シーズンに観光客が大幅に減少していることが課題となっていました。そこでVponの旅行者データを分析することで、以下のような内容が明らかとなりました。
・大雪カムイミンタラ観光圏を訪問した旅行者は、東京、大阪、京都、千葉(成田空港)などの都市や空港との相関が高い傾向。道内での相関として、札幌市、千歳市(新千歳空港)、富良野市などが上位にあがっており、大雪カムイミンタラ観光圏に訪れる訪日旅行客は、同地域だけを目的とせずに、他の都市と並行して訪問している傾向。
図3:旭川周辺地域のフットプリント例
■次の展開としての集客プロモーション
おおまかに自地域を訪問する訪日旅行者の属性、興味、行動などが明確になった段階で、ようやく具体的なターゲット国や注力時期が確信に変わります。ターゲットが明確になればなるほど、アプローチすべき最適な方法(SNS対策、広告配信のターゲット選定など)が見えてくるでしょう。
上記の二地域の例のように、観光資源を保有しているにも関わらず海外の旅行者には、認知されていない地域が多くあると思います。またイメージが優先して魅力が伝わりきれてないケースもあるでしょう。どのようなターゲット層にアプローチすれば最も効率的に誘客できるかが明らかになれば、地方への分散化は効果的に進むでしょう。