下半期、インバウンド業界にとって最大のイベントといえば国慶節です。中国では10月1日から10月7日まで連休となります。
この大型連休を利用して中国から多くの旅行客が日本にやってきます。
さて、今年の国慶節における中国人旅行客はどのような動向だったのでしょうか?
今回は中国のニュースサイトや政府発表から中国人旅行客の訪日状況を見ていきます。
■出国者数と消費額
700万人の中国人旅行客が出国した今年の国慶節。今年、中国人旅行客はどの国へ行く人が多かったのでしょうか。
中国文化和旅游部の発表によると、国別に中国人旅行客の訪問数を見ると日本が1位となり、一人当たりの消費額においても大手旅行予約サイトの携程の調査で日本が1位となりました。
昨年の訪問数ランキングでは日本はタイに次いで2位、消費額ランキングにおいても昨年は日本は香港に次いで2位でした。
訪問数ランキングでは、昨年タイでは中国人旅行客に向けてビザの緩和などを行ったことで人気を集めましたが、今年は日本においてもビザの緩和が行われたことで中国からより近く、利便性がある日本が1位となりました。
消費額ランキングでは、昨年までは利便性などで香港がトップとなっていましたが、今年は情勢の悪化などを受けて日本が1位となりました。
■なぜ日本が1位?
なぜ、今年は訪問数、消費額ランキングで1位となったのでしょうか。
その要因として、中国の各メディアでは(1)ビザ緩和と(2)人気アーティストのMVのロケ地巡りが挙げられていました。
(1)ビザ緩和
日本では今年の1月と5月に一部の中国人旅行客に対してビザの緩和を行いました。
ビザの緩和では一部大学の学生、卒業生に対する一次ビザ申請の簡素化と訪日リピーターに対して数次ビザ申請の簡素化を行いました。さらに、7月から旅行代理店から申し込みされた団体旅行客に対して一次ビザのオンライン申請を開始しました。それによって国慶期間の訪日数増加につながったと複数メディアで報道されています。
来年からはさらに電子化を進める予定となっており、個人旅行客に対してもオンライン申請を開始するほか、電子ビザの発給も予定されています。
(2)人気アーティストのMV
一部メディアではビザ緩和のほかに人気アーティストのMVのロケ地巡りが挙げられていました。
中華圏で大人気の台湾出身のシンガー、ジェイ・チョウ(周杰倫)とMayday(五月天)のボーカル、アシン(阿信)のコラボ楽曲が国慶節前に公開されました。この楽曲のMVは日本で撮影され、東京タワーやスカイツリー、谷中銀座などがMVで登場したことで人気スポットとなり、中国の各旅行会社でも聖地巡礼ツアーが企画されるなど大きな流行となりました。
参考:聖地巡礼
中国では日本旅行の目的として「聖地巡礼」が若者を中心に台頭してきています。聖地巡礼とは映画やアニメの舞台やロケ地を実際に巡ることです。
「スラムダンク」のオープニングで登場する鎌倉高校前駅の踏切は中国人旅行客の間ではよく知られています。また最近では「君の名は。」の聖地をはじめ、今年「千と千尋の神隠し」が中国で初めて正式に公開されたことでジブリ作品も注目を集めています。
そして、来年の春節には中国で大ヒットした人気シリーズの映画「唐人街探案(僕はチャイナタウンの名探偵)」の3作目の舞台が日本となり、日本を中心に撮影されているため、春節明けには「唐人街探案」聖地巡りが再び流行るのではないでしょうか。
■爆買いの落ち着きとコト消費への移行
国慶節といえば「爆買い」ですが、中国文化和旅游部は「中国人のショッピングはより理性的になってきている。数年前の便器や風邪薬、炊飯器などの商品を爆買いし、小さなコンテナで中国まで送るという事象は少なくなった。(2019年国庆假期文化和旅游市场情况)」と述べている通り、近年の爆買いの動きは徐々に穏やかになってきています。
爆買いの落ち着きとともに若者を中心にコト消費へと移行しつつあります。
実際に免税店における滞在時間が減少しており、その代わりに温泉入浴や文化体験などの予約は増加しています。
2019年の初めに東京国立博物館で開催された特別展で台北の故宮博物院の展示物が展示された際には、約5万人もの中国人旅行客が東京国立博物館を訪れました。そのほかにもアニメやPVの聖地巡りなども人気で、徐々に「ショッピングのための訪日」から「何かをするための訪日」へ変容してきています。
■新たなショッピングの形
しかしながら完全にショッピング熱が冷めたわけではなく、最近ではオンライン上でクーポンを取得して店舗で買い物をしたりオンライン上で注文をして空港やホテルで受け取るなどオンラインを利用したショッピングが増加しています。
さらに、決済方法を見てみると、クレジット決済が未だに主要な方法ではありますが、海外でもWechat payやAlipayが使えるようになってきたことから海外におけるQR決済数が急増しています。
Ctrip global shoppingが発表した日本の都市別ショッピングランキングによると、1位は大阪、2位は東京、3位は名古屋となりました。
注目すべきところとしては3位以下に岡山や埼玉、柏のような観光地や大都市ではない街が入っている点です。
そのような街が入っている要因の一つに、ランクインした街の共通点として空港や大都市、観光地から近い位置に大型ショッピング施設があることが考えられます。
日本の都市別人気ショッピング地ランキング
参照:携程全球购还「日本购物城市排行榜」
参考:消費増税の影響
国慶節前、消費増税による中国人旅行客への影響が懸念され、中国のメディアでも日本の消費増税についての記事が多く出ていました。
しかしながら蓋を開けてみると、消費増税による影響はあまりなかったようだということが報じられました。
免税店以外のショッピング施設や百貨店、ブランド店では店舗で買い物をする中国人旅行客に対してクーポン券の発行やキャッシュバックを大々的に行なった結果、割引による売り上げが消費税増税による影響をはるかに上回ったようです。
■まとめ
中国人旅行客の訪日旅行状況は年々増加していますが、「ただ増加している」ということだけを見てはいけません。
中国人旅行客のショッピング熱は未だ健在ですが、ショッピングの仕方が変容していることやショッピング以外に目的を見つけて日本に訪れているということにも注目をしなければなりません。
特に訪日リピーターが増えている中で飲食や娯楽に対する消費額が上がっていることから、コト消費に注目が集まっています。
このことから、まだまだ中国人旅行客には伸び代があることに加えて日本においても小売店だけではなく各自治体の皆さんや娯楽施設を経営されている皆さんにとって今がチャンスかもしれません。
次の大型連休は2020年1月25日から始まる春節!
次の春節に向けて準備をしてみませんか?