2019年5月23日(木)大阪の心斎橋にて、大阪観光局様とVpon JAPANの共催で「Vponビッグデータインバウンドセミナー」を開催しました。弊社の篠原からはVpon JAPANのビッグデータについてお話をさせていただき、大阪観光局の牧田拡樹様からは大阪におけるインバウンド状況からOsaka Night Outの結果と展望についてお話しいただきました。そしてゲスト登壇として京都市観光協会の堀江卓矢様をお招きして京都市観光の現状とデータ戦略についてお話しいただきました。
最後には大阪観光局の木村様、藤田様と弊社の吉備とのトークセッションを行い、活発に様々な意見が交わされました。
大阪市と京都市という訪日旅行客が多い地域が行なっている先進的な事例には、皆様興味深く聞いている様子が伺えました。
ビッグデータを活用したインバウンドデジタルマーケティング
~大阪観光局DMP構築事例から~
まず最初はVpon JAPAN株式会社代表取締役社長 篠原好孝より、大阪観光局DMPを事例にインバウンドデジタルマーケティングについてお話いたしました。
JNTOはプロモーションに特化し、DMOは観光資源の発掘に特化していくべきだという議論が出てきていますが、我々はそこにソリューションを与えていきたいと思っております。
さて、データを活用するには、「1.データを集める」「2.データを統合する」「3.データを活用する」という3つのステップを踏む必要がありますが、データを収集できても活かしきれていないということが課題に挙げられます。そのような中で我々はソリューション事業者としてデータを集め、整理し、それらのデータを活用していきます。これらのデータを活用することで、機械学習によって属性や訪日時期を予測することも可能です。
Vponでは大阪観光局様とDMPを構築していますが、このDMPから大阪を周遊している訪日客の周遊コースや国ごとの平均旅行日数、訪日時期の傾向がわかりました。今回はそれらの事例をもとに大阪のインバウンド状況をいくつか紹介していきます。
大阪を訪れた訪日客の周遊コース
データから特定の訪日観光客を時系列で軌跡を追跡することができます。
例えば、上図の台湾人は大阪を拠点に京都、奈良へ行っていることがわかりました。
図2の香港人の場合、大阪から神戸→京都→滋賀→和歌山と周遊し、最後は関西国際空港へ向かっています。
このように軌跡をたどることで、プロモーションを行っている周遊コース通りに周遊しているのか、どれくらいの日数で周遊するかなどを国籍別に把握することができるため、新しいコースの発掘やモデルコースの改善に役立てることができます。また周遊コースに入る前と後にどんな動きをしているのかを知ることでプロモーションのタイミングのヒントにもなります。
大阪を訪れた訪日客のインサイト
そしてデータから訪日客の特性(インサイト)も知ることができ、国別に人物像を把握することができます。
ある一定期間に大阪に滞在した香港人を例に性別や滞在期間、モバイル使用時間帯を見てみると、この期間、大阪に滞在した香港人を性別で見てみると、男性は77.8%、女性は22.2%で男性の方が多かったことがわかりました。
モバイル使用の時間帯を見てみると、午前9時から午後3時までモバイル使用が多いことがわかります。このことから実際に大阪にいる香港人に広告を配信する際はこの時間帯に予算を集中させると効果的だと考えられます。
また広告の配信後、興味を示した広告を調べることもできます。大阪に滞在中の香港人の場合、通信・Wi-fi関連、金融・モバイル決済関連に対して非常に強い興味を持っていることがわかりました。そして、彼らの普段のライフスタイルを16種類のカテゴリーに分けてみると、大阪滞在している香港人はテクノロジーに興味がある人や投資家層が多いことがわかりました。
スマートフォンに入れているアプリは旅行系はもちろんのこと、ライフスタイルやモバイル決済に関連したアプリを入れているようです。
これらのインサイト分析によって人物像を特定し、旅マエにはその人物像に当てはまる人物に対して効率的に広告を配信することができ、旅ナカでは実際に現地を訪れている訪日客に広告を配信することができます。
大阪観光局のデジタルマーケティング施策と今後の展望
〜ニーズ調査からコンテンツ造成で魅力ある大阪の情報発信〜
大阪観光局の牧田様からは「大阪観光局のデジタルマーケティング施策と今後の展望 〜ニーズ調査からコンテンツ造成で魅力ある大阪の情報発信〜」をテーマにお話しいただきました。
2018年は1142万人の訪日外国人が大阪を訪れ、そのうちのほとんどが東アジアからの訪日客なのだそうです。
しかしながら、大阪の特徴としては訪日外国人による夜の活動時間が短く、大阪を選ぶ訪日外国人は夜遊ぶことを考えていない傾向にあるようです。
そこで大阪のキタ、ミナミの19店舗が参加してOsaka Night Outという実証実験を行い、広告配信を行いました。
結果的には集客には直結していないケースもありましたが一定の効果はありました。改善策としては予約システムの構築とデジタル・アナログを含めて今大阪に来ている外国人に対して十分にイベント・コンテンツ情報を伝える必要があるということがわかりました。また、東アジア別の切り口が必要であることもわかりました。
今後、24時間観光都市を目指して本格運用を予定しており、本格運用に向けては実証実験から東アジアはマッサージが人気であるとわかったため、ビューティーカテゴリーの導入や周遊ルートの作成、またG20などでは記者向けにプレスキットとしてナイト観光の情報を入れ、周知をしていく予定です。
京都観光の動向と京都市観光協会(DMO)のデータ戦略
京都市観光協会の堀江様からは「京都観光の動向と京都市観光協会(DMO)のデータ戦略」をテーマにお話しいただきました。
年々、京都を訪れる訪日旅行客の数は増加しており、そのうち中国、台湾、香港、韓国などのアジア圏からの旅行客が大半を占めていますが、アジアだけでなく、イタリア、スペインなど南欧からの訪日数が急増しているそうです。しかし、ホテルで見てみると平均客室単価は東京に次いで高いものの、世界的にみると単価は安く、世界のラグジュアリー市場を取り込みきれていないということが課題となっています。このことから、これからの京都が果たす役割として、よりハイエンドなホテルの強化や町家などの特徴的な宿泊施設を増やすこと、観光客に対する選択肢を広げ訪日市場の価格上限を押し上げることが重要となるようです。
京都市のこれからの展開として、京都市内のホテルなどからデータをもらい、メディアや投資家に情報を提供していくことで誘客につなげていくということを掲げました。
そのためのカスタマージャーニーとして
1. 現地メディアや広告配信による認知
2. GoogleやSNSを使用して検討
3. オフィシャルサイトや案内所を用いて確認
という流れを目指しているということでした。
まず1.ではメディアサポートセンターを創設して世界のラグジュアリーホテルを掲載するメディアで記事化をしてもらい、京都への憧れを醸成すること。そしてメディアに向けては写真や動画などの提供も行っています。2.ではほとんどの観光客はGoogle Mapを利用しているということからGoogleマイビジネスに情報を集積させ、旅行客に情報を発信しています。実際に特設サイトとGoogleマイビジネスを比較すると、Googleマイビジネスでの閲覧数は特設サイトの10倍以上の閲覧数となったそうです。3.チャットボットを導入して、リクエストデータをデータ化することで、サイトの情報の改善に役立てています。またWEB接客を導入しました。WEB接客ではそのページを閲覧するとアンケートがポップアップとして出てきます。このことでアクセスログとアンケートを紐付けし、必要な情報を必要な人に届くような仕組みを作っています。このようにしてオフラインとオンラインの融合を目指しています。
トークセッション
大阪観光局のデジタルマーケティング 〜空気で仕事をするな、データで示せ〜
最後に「大阪観光局のデジタルマーケティング」をテーマに、大阪観光局の木村様、藤田様とVpon JAPANの吉備(モデレーター:Vpon JAPAN 有田)によるトークセッションを行いました。
トークセッションでは1.大阪観光局の取り組み全体について、2.デジタルから見えるもの、3.デジタルマーケティングの浸透についてという3つのセッションに分けて行われました。
1. 大阪観光局の取り組み全体について
有田 まずは大阪観光局さんのビジョンを教えてください。
木村 大阪を訪れるインバウンドの数、消費額の増加を目指しています。現在、大阪ではアジアの観光客が多いのですが、まだ発掘しきれていない観光資源が多くあるので、それを生かしていきたいと思っております。
有田 そのためにしていることはなんですか。
木村 局全体で大阪観光局の公式サイトであるOSAKA INFOやSNSによる発信、また大阪観光局の周遊パスの販売、大阪Wi-fiの展開、旅行展への出展などを行なっています。最近ではOsaka Night Outなどのキャンペーンも行なっています。
有田 このような活動は順調に進んでいますか。
藤田 来阪者数は順調に伸びていますが、コンテンツごとに効果があるのかないのかを判断することが難しいので、それが課題です。
有田 外から見ると大阪観光局さんはどのように見えますか。
吉備 大阪観光局さんに限ったことではありませんが、旅マエでの訴求に対して、「なんで大阪に来たのか」、「なんで日本に来たのか」という効果検証をするのが非常に難しいなと思います。そもそも大阪に来ている人はどういう人なのかということを把握できていないとケースが非常に多いと感じています。
2. デジタルから見えるもの
有田 今回、本テーマの副題である「空気で仕事をするな、データで示せ」という言葉は大阪観光局さんの溝畑宏理事長の言葉を引用させていただきました。対策はあるが効果がどうかというのはデータでないとわかりずらい部分があり、もっとデータから現状把握する必要がありますが、大阪観光局さんではどういうデータを扱っていますか。
木村 年に4回実施しているアンケートによる観光調査を行なっています。その中で消費額なども聞いています。また、大阪観光局が所有している十数個のサイトやアプリ、キャンペーンサイトから取得したデータも活用しています。
吉備 Vpon JAPANでは大阪観光局さんのDMPの構築をさせていただいており、その中でデータをしっかりと可視化したダッシュボードを提供させていただいています。ダッシュボードではサイト分析や施策に対する効果や消費額を見ることができます。例えば「流入キーワード」というダッシュボードがありますが、これは「どういうキーワードで大阪観光局さん所有のサイトにアクセスをしているのか」ということがわかるものとなっています。
例えば、OSAKA INFOではどんなキーワードでサイトに流入しているかというと、「大阪」や「大阪城」が多いようです。イベントがあるとイベント名が流入キーワードに出てくることもあります。
有田 このダッシュボードに対する大阪観光局さんの意見はどうですか。
木村 データの見方はまだまだ勉強中ではありますが、データで見えてくる数字は今後運営していく上でブラッシュアップに役に立つと思っています。
有田 ダッシュボードを作る中で苦労した点はありますか。
吉備 大阪観光局さんは20弱のサイトをお持ちなので、DMPを作る上で肝となるデータを収集するための観光タグをサイトにつけるために、様々なサイトの制作会社と協力をしながら進めた点です。非常に地味な作業が多かったですね。
有田 DMPを作る上で、他の会社さんのデータも合わせて使っていかないとDMPの価値を活かしきれないと思いますが、他社さんのデータ活用もしていますか。
藤田 Vpon JAPANさんが所有しているデータももちろん使用していますし、プロジェクトごとに出た結果も入れています。
3. デジタルマーケティングの浸透について
有田 デジタルマーケティングは実行に移すのが難しいのではと思いますが、大阪観光局さんではその点どう思いますか。
藤田 データやツールなどは何度か利用したことがありますが、実際にデータを見てもらい部署を超えて行動を起こしてもらうということが難しいと感じています。
木村 内部だけで自力でそれをするというのは難しいので、Vpon JAPANさんなど他社に来てもらって勉強会を開き、みんなで勉強する機会を作っています。
Vponさんには11月以降、10回くらい勉強会をしていただいています。DMPを構築しても、使ってもらうのは現場の方たちなので、全部署に対してどんなデータがあったらいいかということ聞くヒヤリング会をしています。またデジタルマーケティングに関する勉強会もVponさんに開催してもらっています。
有田 数ヶ月かけて勉強会を通してデジタルマーケティングについて知ってもらって、デジタルマーケティングっていいよねと実感してもらわないといけないのですが、なかなか進まないことが多かったですよね。
さて、最後にこうしていきたいなどの展望がありましたら教えてください。
木村 今後もOsaka Night Outなどのデジタルデータで効果検証ができるプロモーションに比重を置いていきたいと思っておりますので、より効果的に実施できるよう、データを読み取る力を高めていきたいです。
藤田 今、DMPをどんどん良くしてもらっている途中ですが、局全体でDMPを使ってもらうことの方が難しいので、局全体で使ってもらいやすいものにすべく、Vponさんと一緒にみんなで使えるDMPにしていきたいです。
吉備 DMPは大阪観光局さんがデジタルマーケティングを推進していく上で非常に重要なものになっていくので、日々コミュニケーションをとりながら課題を解決しつつ、推進していきたいです。そして、大阪観光局さんももちろんですが、関西のインバウンドを盛り上げていきたいので、デジタルマーケティングを活用したい企業さんがいらっしゃいましたら是非協力していきたいと思っております。
さいごに
2回目の大阪でのインバウンドセミナーでしたですが、今回は大阪観光局様と共同で開催をさせていただきました。大阪市内外から多くの観光関係者や企業様などにお集まり頂き、大変貴重な機会となりました。
大阪はラグビーワールドカップや大阪万博など様々なインバウンド関連のイベントがあることから、今回のセミナーではインバウンド対策に対する機運が高まりを感じました。
本セミナーが少しでもインバウンド対策を進める上で良いヒントとなりましたら幸いです。
そしてぜひVponのビッグデータを役立ていただけますと幸いです。
改めまして、今回共催の大阪観光局様、そしてご登壇いただいた京都市観光協会の堀江様に御礼申し上げます。
※当記事は2019年5月の情報をもとに構成しています。掲載内容、所属団体、部署名、役職名等は、セミナー開催時のものになります。